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広島地方裁判所 昭和49年(ワ)684号 判決

原告 中川文男

被告 国 ほか三名

訴訟代理人 下元敏晴 三森継男 ほか一名

主文

昭和四七年(ワ)第五八七号、昭和四九年(ワ)第六八四号各事件原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はすべて右両事件原告の負担とする。

事実

第一双方の申立

原告は、昭和四七年(ワ)第五八七号事件について、「被告広島県、同山口県、同国は、原告に対しそれぞれ金一二〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日(被告広島県、同山口県については、いずれも昭和四七年八月一二日被告国については同月一三日)以降それぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は同被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、昭和四九年(ワ)第六八四号事件について、「被告兵庫県は、原告に対し金一二〇万円及びこれに対する昭和四九年一〇月一三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告兵庫県の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被告らは、主文同旨の判決を求め、なお両事件について、いずれも敗訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

第二昭和四七年(ワ)第六八七号事件に関する双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  (原告の地位)

原告は、アメリカ政府によるベトナム侵略とベトナム戦争に対する日本政府のアメリカへの加担に強く抗議する意志をもつて、「ベトナムに平和を。ベトナムはベトナム人の手に。日本政府はベトナム戦争に協力するな。」という三つのスローガンのもとにベトナム戦争に反対する「ベトナムに平和を! 市民連合」(以下、「ベ平連」という)の運動に共鳴して反戦平和の活動を行ない、昭和四六年一〇月からは岩国市に居住し、岩国市における反戦平和活動の一拠点として日本人市民やアメリカ軍岩国基地の兵士達の話し合いと憩いの場を提供するため、昭和四七年二月二五日岩国市今津町二の二の三九においてコーヒーハウス「ほびつと」(以下、単に「ほびつと」という)を開店し、営業を続けていた。

(二)  (本件捜索の事実)

ところで岩国警察署派遣、山口県警察本部警備課司法警察員林孝一を責任者とする一九ないし二〇名の警察官は、昭和四七年六月四日午後一時四〇分頃原告経営の「ほびつと」に来店し、捜索差押許可状(以下、本件許可状という)を示したうえ、同日午後二時頃から三時三〇分頃までの間「ほびつと」の各部屋等の捜索を執行したが、何ら押収すべき物がなかつたので、その旨の証明書を残して右捜索を終了した。

本件許可状の被疑事件、被疑事実の要旨、差押の対象となるべき物件の記載は次のとおりである。

(1) 被疑事件

岡田泰に対する銃砲刀剣類所持等取締法(以下銃刀法という)違反。

(2) 被疑事実の要旨

被疑者は、ほか数名と共謀のうえ、昭和四六年一一月中旬頃から昭和四七年六月四日までの間、広島市以下番地不詳、名称不詳のビル内等において、反戦米兵、岩国ベ平連等を通じ窃取した銃刀法二条にいう銃砲である米国軍用AR-一五自動ライフル銃(コルトAR-一五、SEMI-AUTOMATIC、RIFLE。以下、本件ライフル銃という。)一丁を何ら法定の除外理由なく隠匿所持していたものである。

(3) 差押の対象物となる物件

本件犯行に関係あると思料される銃及び弾丸類、包装物件、組織、綱領、規約、役員及び構成員名簿、会議議事録、会議資料、各種指令又は指示、連絡、通達を記載した文書並びに機関紙(誌)類、通信文、往復文書、手帳、日誌、メモ類、録音テープ、フイルム類、その他本件に関係あると認められる書類、写真、その他の物件。

しかして本件許可状は、昭和四七年六月四日広島県警察本部司法警察員警視西浜勇が広島地方裁判所に請求し、同日同裁判所裁判官広田聰が発付したもので、広島県警察本部は本件許可状に基づく捜索差押の執行を山口県警察本部を通じて岩国警察署に依頼し、同署がこれに応じて「ほびつと」に対する捜索差押の手続を執行したものである。

(三)  (違法性)

しかしながら本件許可状の請求、発付、執行の各行為は次のとおり違法である。

(1) (捜索行為が根拠を欠くことについて)

「ほびつと」においては、開店以来銃刀法に該当する武器等を所持または預つたことはなく、また岡田泰なる被疑者は原告または「ほびつと」と無関係であるし、米軍岩国基地から銃が盗取された事実もないから、被告らのなした一連の捜索行為は何ら根拠がなく違法である。

(2) (本件許可状の請求、発付行為及びこれに基づく執行行為の違法性について)

(イ) (本件許可状に記載された岡田泰に対する被疑事実の不存在)

本件許可状に記載された被疑事実は、本件許可状発付の日に逮捕された被疑者岡田泰の逮捕状記載の被疑事実と異なるのみならず、この事実自体相当の被疑はない。すなわち、岡田泰に対する逮捕状記載の被疑事実の要旨は、「被疑者岡田泰は、ほか数名と共謀のうえ、昭和四六年一一月中旬頃、大阪市以下不詳の共産同赤軍派構成員西浦某のアジトにおいて反戦米兵、岩国ベ平連等を通じて窃取した銃刀法二条にいう銃砲である本件ライフル銃一丁を何ら法定の除外理由なく所持していたものである。」というのであるが、本件許可状記載の被疑事実では、場所が「広島市内某所」であり、かつ日時が「昭和四六年一一月中旬頃から昭和四七年六月四日までの間」とあるのに、逮捕状記載の被疑事実では、それぞれ「大阪市内某所」、「昭和四六年一一月中旬頃」となつており、同一の銃砲の不法所持の嫌疑でありながら、場所と日時を全く異にする二つの被疑事実が作られているし、また岡田泰に対する銃砲一丁の不法所持の嫌疑は、橋野高明(旧姓木山。以下、木山という)の供述調書を主たる根拠とするものであるが、木山の供述調書は兵庫県警亀山警部補の偽造にかかるものであり、かりにそうでないとしても、木山は同警部補に対し昭和四六年一一月中旬頃大阪市内で自動ライフル銃を目撃した旨供述しているにとどまり、本件許可状記載の日時、場所である「昭和四六年一一月中旬以降」のこと及び「広島市内」でのことについては全く触れていないし、本件許可状記載の被疑事実自体犯行場所が「広島市内以下不詳」とあつてその特定がなされておらず、犯行日時が半年近い期間であることや、その終期である「六月四日」が全くの恣意的な日時の設定であることを考えると、右被疑事実は全くの制作である。

(ロ) (岡田泰に対する被疑事実について「ほびつと」を捜索する「関連性ないし必要性」の不存在)

岡田泰は、昭和四六年四月から昭和四七年五月三一日までの間株式会社教学出版(昭和四七年五月株式会社日本通信教育学会と名称を変更。以下教学出版という。)に勤務し、同社の発行する「マンスリーキヨーガク」という雑誌のため昭和四六年一一月末から昭和四七年二月にかけて二、三回岩国市を訪れ、米軍基地や岩国のベ平連メンバーから取材したことがあるが、岡田泰が銃砲を所持していたとされる昭和四六年一一月中旬頃には、「ほびつと」は未だ存在せず、かつその頃に岡田泰が岩国市を訪れたことはないし、同人は「ほびつと」開店後も同店を訪れたことはないから、岡田泰に対する被疑事実をもつて「ほびつと」を捜索差押の対象とすることは「捜索の関連性ないし必要性」を欠いており、違法である。

また、本件許可状記載の被疑事実によれば、岡田泰の犯行場所は、「広島市内以下不詳」の某所であるから、岩国市に所在する「ほびつと」に捜索差押の対象となる銃及び弾丸類が存しないことは明らかであつて、この点においても「ほびつと」を捜索する関連性ないし必要性はないというべきである。

(ハ) 従つて、本件許可状は、「相当な嫌疑」、「捜索の関連性ないし必要性」のいずれをも欠いた違法なものであるから、本件許可状の発付を請求した警察官西浜勇の行為、客観的に犯罪事実の嫌疑も差押えるべき物の存在の蓋然性もないのにかかわらず、本件許可状の請求に際し付された資料の判断を誤り、これを発付した裁判官広田聰の行為は、いずれも刑事訴訟法二一八条、二二二条、一〇二条に照らし違法であり、さらに本件許可状に基づく捜索の執行にあたつた岩国警察署派遣の警察官らは、岩国ベ平連及び「ほびつと」に対する情報収集により「ほびつと」に銃が存在しないことを知りながら捜索を行なつたものであり、かりにそうでないとしても米軍岩国基地に問合わせることにより銃の紛失がないことを容易に確認できたにもかかわず、これをしないまま捜索を行なつたのであるから、同警察官らの行為もまた前記刑事訴訟法の各規定に照らし、違法というべきである。

(3) (具体的な捜索執行行為の違法性について)

本件許可状に基づく捜索の執行にあたつた岩国警察署警察官ら(責任者林孝一)は、「ほびつと」に来店した客に対し次のとおり取調べ、身体検査、来店への妨害行為を行なつたが、これらはいずれも捜索手続上正当化し得ないものであり、刑事訴訟法二一八条、二二二条、一〇二条に違反し、かつまた警察官職務執行法(以下、警職法という)二条の要件にも合致しない違法な行為である。

(イ) 客A(二三才の男子)帰ろうとして店の入口に進んだところ、私服警察官に肩をつかまれ身体検査を受けた。

(ロ) 客B(一八才の男子)帰ろうとして店の入口まで来たところ、住所氏名を聞かれたほか所持していたマツチ箱の中のマツチ軸、所持金の額等を調べられ、さらに靴及び靴下を脱がされて、靴の中を調べられた。

(ハ) 客C、D(いずれも一八才の男子)名前、住所、学校を尋ねられ、所持品の検査を受けたうえ、うち一人については所持していたおにぎりの中味まで調べられたのみならず、「ほびつと」から岩国駅まで尾行された。

(ニ) 客E(二〇才の女子)住所、氏名を聞かれたほか、所持品検査を受け、警察官から「店に出入りしている人を調べる」と言われた。

(ホ) 客F(アメリカ兵)身分証明書の調査を受けると同時に所持品の検査を受けた。

(ヘ) 客G(二二才の男子)妹と二人で店に来たところ、制服警察官三名に取囲まれ、職務質問を受けたが、これを拒否したところ「帰れ、帰れ」と追返されて店に入れなかつた。

(ト) その他五名の客は、いずれも店の出入口で追返され、かついずれも住所氏名、店に来た回数、店に来る目的を警察官から聞かれた。

(四)  (被告らの責任)

以上のとおり広島県警察本部所属警視西浜勇、広島地方裁判所裁判官広田聰、岩国署派遣警察官らは、いずれも本件許可状が違法不当なものであることを知りながら、あるいは重大な過失をもつてその違法不当であることを看過して、それぞれ請求、発付、執行したものであり、また捜索の執行方法上の前記違法行為は、林孝一ほか二〇数名の警察官が故意に行なつたものであり、広島県警察本部長も故意または重大な過失をもつて右執行を容認したものである。

しかしてこれらの行為は、いずれも公権力の行使にあたる公務員がその職務の執行上行なつたものであるから、広島県警察本部長、同本部所属警視西浜勇の行為については広島県が岩国署派遣山口県警察本部林孝一ら約二〇名の警察官の行為については山口県が、裁判官広田聰の行為については国がいずれも国家賠償法一条に基づく責任を負担する。

(五)  (原告の蒙つた損害)

(1) 慰藉料 一〇〇万円

原告は、本件捜索により住居の平穏を侵害され、また「ほびつと」の営業を妨害されたのみならず、反戦平和のための喫茶店として市民や米軍兵士達に信頼されていた「ほびつと」の名誉、名声を著しく傷つけられたことから、多大の精神的苦痛を受けたのであつて、これに対する慰藉料は少なくとも一〇〇万円を下るべきものではない。

(2) 弁護士費用等 二〇万円

原告は、本件捜索に関する関連警察への抗議、本件訴訟提起等のため、弁護士費用、調査費として少なくとも二〇万円を要した。

(六)  よつて原告は、被告らに対し国家賠償法一条に基づき損害賠償としてそれぞれ金一二〇万円及びこれに対する不法行為の後である本件訴状送達の翌日(被告広島県、同山口県についてはいずれも昭和四七年八月一二日、被告国については同月一三日)以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  請求原因(一)の事実のうち、原告が、原告主張の日時、場所において「ほびつと」を開店したことは認めるが、その余は争う。

(二)  同(二)の事実は認める。ただし、捜索の終了時間は午後三時二一分であり、「ほびつと」の捜索に従事した警察官は総計二四名である。

(三)  同(三)の事実のうち、岡田泰に対する逮捕状記載の被疑事実の要旨が原告主張のとおりであること、岡田泰が原告主張の期間教学出版に勤務していたことは認めるが、その余は争う。

(四)  同(四)、(五)の事実はいずれも争う。

なお、広田裁判官の本件許可状の発付行為の違法性に関する原告の主張は、同裁判官が客観的に嫌疑の相当性も押収すべき物の存在も示すべき資料が存しないのに資料の評価を誤つて本件許可状を発付したというのであるが、裁判官が資料(証拠)を評価してなす事実の認定は、極めて高度な判断作用であり、その当否は、当該裁判の手続内で解決されるべきものであつて、本件のように当該手続の中での不服申立てが許されない裁判にあつては、法が右裁判を簡易迅速に確定させることを旨としているのであるから、これを国家賠償法手続の中で争わせ得る場合は、その判断が、判決における非常上告事由、再審事由に該当するなどの例外的な場合にとどまるものというべきである。ところが原告主張の違法事由は、単に資料(証拠)の評価にかかる事実の認定の当否にすぎないから、国家賠償の要件としての違法事由となり得ず、従つて主張自体失当である。

三  被告らの主張

(一)  (捜索、差押の違法、故意、過失について)

捜索、差押、逮捕のような強制捜査に裁判官の令状が必要とされるのは、これら強制捜査が人権侵害の可能性を伴なうからであるが、捜索、差押は、直接人の身体を拘束する逮捕に比し、より初期的段階に位置づけられるもので、犯罪と犯人を結びつける機能があること及び人権に対する侵害の程度が低いことなどから、犯罪の嫌疑の程度は逮捕の場合よりも低い程度の資料で足りるものというべきであり、このことは令状請求時の犯罪の嫌疑の程度につき、逮捕状の場合には「相当な理由」(刑事訴訟法一九九条二項)が要求されているのに比し、捜索、差押令状の場合には、単に「罪を犯したと思料されるべき資料」(刑事訴訟法規則一五六条一項)の存在を求めているにすぎないことからも明らかである。

また物の存在の疎明については捜索すべき場所が被疑者又は被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所である場合には、第三者の権利保護の観点から法文上「差押えるべき物の存在を認めるに足りる状況」(同規則一五六条三項)の疎明が要求されているが、その対象となる住居等の差異により必要な疎明の程度及び方法が異なるものというべきである。

しかして捜索手続における判断権は、第一次的には捜査機関にあるのであるから、収集された資料によつて捜査の必要性があるか、令状請求に必要な要件を具備しているかの第一次的な判断権は捜査機関に任されているというべく、国家賠償法上捜査行為が違法であり、故意過失があるとされるためには、その行為者の行為が、通常の捜査官として到底あり得ないような判断をした場合に限定されるべきであり、少なくとも捜査における証拠の信ぴよう力についての判断の当否は、一見明白に経験則に反する場合を除いては、違法ないし故意過失の問題を生ずる余地はない。

(二)  (本件許可状の請求行為及び発付に基づく捜索執行の嘱託行為の適法性)

(1) 広島県警察は、昭和四七年一月三一日兵庫県警察から中国管区警察局を通じ、木山の「昭和四六年一一月中旬頃、広島大学生で元中核派の立石某という男が来阪し、「同年六月頃岩国米軍基地から反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取した武器を武闘に備えて保管しているが、市街戦を行なう軍組織が弱いので組織ぐるみ赤軍に加盟したい」と申入れてきた」旨の供述があつたとの通報を受けたため、兵庫県、山口県の各県警察と緊密な連絡をとりつつ、昭和四七年二月一日から捜査を開始し、関係捜査資料を分析検討した結果、次のような資料及び事実により、岡田泰について銃刀法違反事件を犯したと思料される相当の理由があり、かつ、「ほびつと」に右事件に関係のある物件が存在する疑いがあると判断した。

(イ) 岡田泰の被疑事実について

a 「自称広島大学生立石某が、岩国米軍基地から反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取し、広島市内か岩国市内のアジトに隠匿している銃器類の一部見本として、米軍用AR-一五自動ライフル銃一丁を持参し、昭和四六年一一月中旬頃、大阪市以下不詳の共産同赤軍派構成員西浦某のアジトにおいてこれを所持していたのを現認した。」旨の木山の昭和四七年四月三〇日付供述があること及び同旨の同人に関する昭和四七年四月一〇日付取調状況の報告があること

b 「ほびつと」出入りの人物を撮影した写真を木山に示した結果、自称立白某の写真を特定し確認した旨の木山の昭和四七年四月三〇日付供述があること並びに同旨の昭和四七年四月一一日付及び五月一四日付取調状況の報告があること

c 立石某と自称している男は岡田泰であることを木山が確認した旨の昭和四七年五月六日付捜査状況の報告があること

(ロ) 「ほびつと」に本件捜索差押の目的物が存在することを認めるに足りる状況があることについて

a 右(イ)aの木山の供述及び同人に関する取調状況の報告があること

b 「ほびつと」に反戦米兵、ベ平連関係者が出入りしている状況を明らかにした昭和四七年六月三日付捜査状況の報告があること

c 「ほびつと」出入り人物のうち、同所において岡田泰を撮影した写真があること

(ハ) これら木山の供述は、同人の供述態度、同人の供述にかかる他の事件の裏付け捜査からみて、十分に信用できるものであつたこと。

(2) そこで広島県警察西浜警視は、昭和四七年六月四日右の資料を含む疎明資料三七点を添えて広島地方裁判所裁判官に本件許可状の請求を行なつたものであり、広島県警察は、広島地方裁判所広田聰裁判官から本件許可状の発付を受けたうえ山口県警察岩国警察署長に対し本件許可状に基づく捜索の執行を嘱託したのであるから、西浜警視による本件許可状の請求行為及び広島県警察の岩国警察署長に対する捜索執行の嘱託行為には何ら違法がなく、適法である。

なお、原告は本件許可状記載の被疑事実は、その日時、場所が不特定であり、また岡田泰に対する逮捕状記載の被疑事実と異なると主張するが、本件事犯は一種の継続犯であるから、少なくとも捜索差押許可状の請求、発付の段階では本件許可状記載の如き特定で十分であり、また岡田泰に対する逮捕状記載の被疑事実は、本件事犯の一時点をとらえたにすぎないものであるから被疑事実が異なるからといつて何ら違法はない。

また被疑者岡田泰に対する被疑事実の対象とされた米軍用ライフル銃は、本件許可状請求時まで発見されておらず、岡田泰が所持していると認められたので、本件許可状請求日である昭和四七年六月四日を一応の区切りとして同人の犯行の最終日としたのであつて何ら恣意的な日時の設定ではない。

原告は、米軍岩国基地において当時銃が盗難された事実はないから、本件捜索の対象となつた銃の存在はあり得ないとも主張するが、広島県警察が山口県警察を通じて米軍岩国基地に照会したところ、銃のナンバーが不明であるから盗難の有無について確認できない旨の回答があつたのであつて、本件捜索の対象となつた銃が盗取された可能性は否定し得ないところである。

(三)  (本件許可状に基づく捜索執行行為の適法性)

(1) 昭和四七年六月四日広島県警察から本件許可状に基づく捜索の執行を嘱託された山口県警察岩国警察署長は、直ちに捜索を行なうことを決定し、捜索隊として林孝一警部を現場総括指導者とする捜索班一三名、制服による警戒警備班一一名を編成し、右捜索隊は同日午後一時四〇分頃「ほびつと」に到着して、捜索の執行に対する妨害を排除するため警戒警備班が店外の警備を行ない、捜索班は、同日午後三時二一分までの間本件許可状を原告に示したうえ、原告ほか二名の立会のもとに「ほびつと」を捜索した。

なお、原告は捜索隊が「ほびつと」に銃が存しないことを知つていた旨主張するが、かかる事実は全く存しない。

(2) 捜索隊がなした「ほびつと」の客に対する具体的行為は次のとおりである。

(イ) 午後一時五〇分頃、年令二〇才位、身長一・六三メートル位、色白中肉、白シヤツ、黒つぽいズボンの男性一名が、店内から外に出ようとしたので、捜索班の弘下巡査部長は、現在捜索差押を実施するため許可状を呈示中であることを説明して同人の協力を求め、その了解を得たうえ、「ほびつと」との関係及び住所氏名を質し、所持品の呈示を求めたところ、男は素直にこれに応じてポケツトから現金、ハンカチ等を取出して見せた。同巡査部長が更に「これで全部ですか」と聞いたところ、男は「ポケツトを直接見て下さい」と述べたので、同巡査部長は同人の着衣の上からポケツトをさわり、他に所持品がないことを確かめ、謝意を述べると、男は店外に立去つた。

(ロ) 午後二時頃店内から一八才位の男二人が出て来たので警備中の高橋巡査部長が「ほびつと」を捜索中である旨説明し、本籍、住所、氏名、年令を尋ねたところ、二人は素直にこれに応じた。うち一人は風呂敷包を所持していたので、念のため中味を見せてくれるよう頼んだところ、これに応じて風呂敷包を差し出してくれた。そこで同人の面前において包をほどきその中を点検し、おにぎりが入つた弁当箱であることを確認し、包を元通りにして返した。

(ハ) 午後二時二〇分頃身長一・六メートル位、中肉色白の若い女性が店内から出て来たので、上林巡査らが「ほびつと」で捜索差押許可状を執行しているので一応名前と所持品を調べさせてもらいたい旨述べたところ、女性は素直に応じて、本籍、住所、氏名を答え、手に持つている週刊誌以外は所持していない旨述べて立去つた。

(ニ) 午後二時一五分頃店内から米兵が出て来て単車に乗車しようとしたので、高橋巡査部長が英語でIDカードと運転免許証の呈示を求めたところ、米兵はこれに応じて呈示した。さらに同巡査部長が、ポケツトの中味を見せてほしい旨尋ねたところ、米兵は自ら上衣、ズボンのポケツトを繰り、車のキーと米コインを見せてくれた。

(ホ) 午後二時から捜索終了までの間、若い男女二人連れが店に入ろうとして、店の前で警備していた合田巡査に店に入つてよいかと尋ねたが、同巡査が「今令状により捜索を執行しているので少し待つて下さい。」と言うと二人は素直に立去つた。

(ヘ) 午後二時頃若い男が店に入ろうとしたので、玄関前で佐藤巡査が「捜索中であるから、立入りを遠慮してもらえないか、どうしても入りたいなら住所氏名を言つてもらえないか。」と説明したところ、男は素直に住所氏名等を言い、「いつごろ終るのか」と尋ねたので、同巡査が「はつきりした時間はわからない」と答えると、そのまま立去つた。

(3) 原告主張の客Aは(2)(イ)記載の男、客C、Dは同(ロ)記載の両名、客Eは同(ハ)記載の女、客Fは同(ニ)記載の外人、客Gは同(ホ)記載の男女二人、その他五名の客のうちには同(ヘ)記載の男が含まれていると思われるが、捜索にあたつた警察官はいずれも、客に対して事情を説明し、捜索に必要な限度において了解を得て質問に答えてもらい、所持品の呈示を受け、または入店を一時遠慮してもらつたのであつて、原告が主張するような事実は全くない。

なお、原告主張の客B及び追返したという客五名のうち四名については該当者はいない。

(4) 捜索差押の執行中においては、物件の持出しを防ぎ、また執行中の妨害を防ぐため、人の出入りを禁止することは執行行為の一部として許されるところであるから、捜索隊の行為は執行行為の一部ないしは任意捜査としていずれも適法である。

四  被告らの主張に対する原告の答弁

争う。

五  原告の反論

被告らが岡田泰に銃刀法違反の被疑事実があると主張する、その根拠の主たるものは、「『立石某が米軍岩国基地から反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取した武器を保管している』旨同人が木山に述べた」及び「立石某が米軍用自動ライフル銃を木山に見せた」との木山の供述であるが、かりに木山がかかる供述をしたとしても、同人の供述調書は一通が作成されているのみで、その他はすべて捜索状況報告書ですまされていることや、同人の供述内容が不自然であり、また立石某が携行したとされる銃の運搬状況について供述に矛盾がみられることなどからして、木山の供述自体の信用牲について疑いがあるのみならず、かりに木山の供述に信用性があるとしても、そのもととなる立石某の供述は再伝聞にすぎず、これを裏付ける資料は何ら存しないから、立石某の供述に信用性があるということはできない。従つて立石某すなわち岡田泰であるとの特定がなされたとしても、岡田泰に対する被疑事実の真実性は極めて疑わしいのであつて、同人に対し「犯罪を犯したと思料される相当の資料」(刑事訴訟規則一五六条一項)があつたとは到底いい難い。

しかも、西浜警視が本件許可状の発付を請求した資料の中には、物証が何ら存在せず、盗取されたとされる米軍に対する照会文書も添付されていないし、岡田泰と「ほびつと」の結びつきについても、立石某こと岡田泰が「ほびつと」を訪れたのは同店の開店前であるから、「ほびつと」の開店後になお同店に押収すべき物が存在する資料とはなし得ないこと、その他「ほびつと」及びベ平連と木山が属していた赤軍との関係等についての資料が全く添付されていないことからすると、被告らの主張する資料では、本件許可状記載の被疑事実及び「ほびつと」を捜索する関連性ないし必要性があつたとはいえない。

六  原告の反論に対する被告らの答弁

争う。

第二昭和四九年(ワ)第六八四号事件に関する双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告の地位、本件捜索の事実、本件許可状の請求、発付、及びこれに基づく捜索行為の経緯、原告の損害は、昭和四七年(ワ)第五八七号事件の原告の請求原因のとおりである。

(二)  (違法性)

(1) 兵庫県警察本部警備課警部補亀山説は、次のとおり木山の供述調書を偽造し、同人に関する虚偽の取調状況報告書を作成した。

(イ) 木山は、昭和四六年一二月二日犯人蔵匿の容疑で逮捕され、昭和四七年三月一〇日から五月三日までの間主として亀山警部補から取調べを受けていたものであるが、同警部補は、木山が本件許可状の被疑事実である岡田泰に対する銃刀法違反事件について何ら供述していないにかかわらず、木山が供述したかのような虚偽の取調状況報告書三通(昭和四七年四月一〇日付一通、同月一一日付一通、同年五月一四日付一通)を作成した。

(ロ) また、亀山警部補は、昭和四七年四月二八日前後三日間にわたり、身柄拘束を受けて身体の弱つていた木山に対し、ウイスキー入り紅茶やウイスキーを無理に飲ませる違法な取調を行ない同月三〇日木山が関知しないまま、同人が供述していないにもかかわらず「立石某が米軍岩国基地から反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取した武器を所持している旨述べた」旨の供述を木山がなしたかのように供述調書を作成し、木山を欺いて署名指印させ木山の供述調書を偽造した。

(2) 原告に対する本件捜索及び岡田泰らに対する強制捜査は、警視庁、大阪府警察、広島県警察、山口県警察に加えて兵庫県警察の五者の合同捜査に基づくものであるが、亀山警部補は、その一環として、右虚偽の報告書三通、偽造の供述調書一通等を広島県警察本部に送り、同本部西浜警視と共同して右各書面を主たる疎明資料として広島地方裁判所裁判官に対し、「ほびつと」に対する本件許可状の発付を請求し、同裁判所裁判官広田聰をしてこれを発付させ、本件許可状に基づいて前記西浜警視及び山口県警察本部警備課司法警察員林孝一外一八、九名の警察官と共同して「ほびつと」を不法に捜索したものである。

(三)  (被告兵庫県の責任)

亀山警部補は、偽造した木山の供述調書、虚偽の木山に対する取調状況報告書等を広島県警察本部へ送り、本件許可状が違法不当なものであることを知悉しながら、それぞれ請求、発付、執行させたものであり、同警部補の行為は公権力の行使にあたる公務員がその職務上行なつたものであるから、同警部補の行為については被告兵庫県が国家賠償法一条に基づく責任を負う。

(四)  よつて原告は、被告兵庫県に対し損害賠償金一二〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和四九年一〇月一三日(訴状送達の翌日)以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告兵庫県の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は争う。

(二)  同(二)の(1)事実のうち、木山が昭和四七年三月一〇日から五月三日までの間主として亀山警部補から取調べを受けていたこと、同警部補が原告主張の取調状況報告書三通及び木山の署名指印のある供述調書を作成したことは認めるが、その余は争う。

なお木山が逮捕されたのは、昭和四六年一二月二七日である。

同(2)の事実のうち、兵庫県警察本部が広島県警察本部に対し、木山の供述調書一通、報告書三通を送付したことは認めるが、その余は争う。

(三)  同(三)のうち、亀山警部補が公権力の行使にあたる公務員であることは認めるが、その余は争う。

三  被告兵庫県の主張

(一)  (木山の取調状況報告書及び供述調書の作成について)

兵庫県警察は、ライフル銃等の窃盗犯人野津加寿恵を隠匿した容疑で昭和四六年一二月二七日木山を逮捕し、取調べていたが、木山は昭和四七年一月末頃担当捜査官植之原巡査部長に対し米軍岩国基地から不良米兵を通じてベ平連が入手した銃が立石某のアジトに隠匿されている旨供述したのを最初として、その後木山の取調べを担当した亀山警部補に対し任意に立石某こと岡田泰が反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取した米軍用ライフル銃を所持していた旨供述したものであり、同警部補は、他事件についての木山の供述内容が裏付捜査により正確であることが判明したことから、木山の前記供述も信頼できるものとして、取調状況報告書三通及び木山の同意を得たうえ同人の供述調書一通を作成したものであつて、ましてウイスキー入り紅茶やウイスキーを木山に飲ませたこともなく、何ら違法はない。

(二)  (本件許可状の請求、執行について)

兵庫県警察は、犯罪情報として警察法五九条の規定により木山の取調状況報告書及び供述調書を広島県警察本部に送付したにすぎず、亀山警部補はもちろん、兵庫県警察は、本件許可状の請求及び執行については何ら関与していないから、被告兵庫県には責任がない。

四  被告兵庫県の主張に対する原告の答弁

争う。

第四証拠関係〈省略〉

理由

第一昭和四七年(ワ)第五八七号事件について

一  請求原因(一)の事実のうち、原告が昭和四七年二月二五日岩国市今津町二の二の三九において「ほびつと」を開店したことは当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によれば、その余の事実を認めることができる。

二  同(二)の事実は、捜索に従事した警察官の数及び捜索の終了時間を除いて当事者間に争いがなく、〈証拠省略〉によると、「ほびつと」に対する捜索に従事した警察官の数は合計二四名で、捜索の終了時間は昭和四七年六月四日午後三時二一分であることが認められ、この認定に反する的確な証拠はない。

三  そこで以下、原告の主張する違法事由の有無について検討する。

(一)  (捜索行為に根拠がないとの主張について)

「ほびつと」に対する捜索において押収物がなかつたことは当事者間に争いがなく、また原告本人は、「ほびつと」において銃刀法に該当する武器を預つたことはない旨及び原告は、昭和四六年一〇月岩国における反戦米兵、一般市民の憩の場として喫茶店を開くことを決め、同年一一月末にその場所を選定し、昭和四七年一月九日より工事にかかり、同年二月二五日に「ほびつと」を開店した旨供述し、証人岡田泰は、当時大学受験のための通信添削を行なう教学出版に勤務していたが、同社が発行する「マンスリーキヨーガク」(高校生を対象とした一般教養誌)の取材のため、昭和四六年一〇、一一月頃当時岩国市旭町にあつた岩国ベ平連の事務所を訪れたことがあり、また昭和四七年二月初め頃建設中の「ほびつと」を訪れ、同店の従業員に会つたことはあるが、それ以外に「ほびつと」を訪れたことはなく、岩国ベ平連とも接触したことはない旨証言している。

ところで、司法警察職員等は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、請求によつて裁判官が発する令状により、差押、捜索をすることができるのであり、(刑事訴訟法二一八条一項、三項)、かつ令状の請求は、被疑者または被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供し、被疑者または被告人以外の者の身体、物または住居その他の場所についての捜索のための令状を請求するには、差し押えるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供して行なうものである(刑事訴訟規則一五六条一項、三項)。これを本件についていえば、本件許可状の被疑者からみた第三者である「ほびつと」を捜索し得るには、本件許可状の被疑者とされる岡田泰が銃刀法違反の罪を犯したと思料される資料があり、かつ「ほびつと」に押収物の存在を認めるに足りる状況が認められる資料があれば、司法警察員等の請求によつて裁判官より捜索差押許可状の発付を受け、捜索差押をすることができるのである。従つて捜索された結果「ほびつと」に押収物がなかつたとしても、それだけで捜索までの一連の行為が違法となるわけではなく、また原告本人、証人岡田泰が述べているように、「ほびつと」において武器を頂つたことがなく、岡田泰と原告または「ほびつと」との関係も岡田泰が単に「マンスリーキヨーガク」の取材のために「ほびつと」を訪れたに過ぎないものであり、さらに原告主張のように米軍岩国基地から銃が盗取された事実がなかつたとしても、これらの事実が本件許可状の請求、発付及びこれに基づく執行の段階で請求者、発付者、執行者において判明していたとすればともかく、そのことを認めるに足りる証拠はないから、本件許可状の請求、発付行為、捜索執行行為の一連の行為が直ちに違法視されるものではない。要するに、本件許可状の請求、発付及びこれに基づく捜索執行行為の段階で岡田泰に対する被疑事実、「ほびつと」に押収物の存在する蓋然性について、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則の要求する疎明資料があつたか否かによつて違法の有無は決せられるべきであるから、原告主張の事由によつて直ちに被告らのなした一連の捜索行為が違法であるとすることはできない。

(二)  (本件許可状の請求、発付行為の違法性の有無)

〈証拠省略〉によると、次の事実が認められる。

(1) 共産主義者同盟赤軍派革命戦線関西地方委員会の幹部であつた木山高明は、兵庫県尼崎市の実兄の家からライフル銃一丁及び実弾を盗み出して逃走していた野津加寿恵を中川貴司らと共謀して昭和四六年一一月七日頃から同月下旬までの間蔵匿していた旨の被疑事実により、昭和四六年一二月二七日逮捕されて兵庫県警察尼崎西警察署に収容され、即日神戸水上警察署に移され、昭和四七年一月一日から神戸市生田警察署に勾留された。

(2) 木山は、逮捕後兵庫県警察久木田警部補や植之原巡査部長の取調べを受けていたが、取調官は、野津加寿恵の犯人蔵匿事件に関連して京浜安保共闘が栃木県真岡市において強奪した銃を、赤軍が入手しているといううわさがあつたため、木山に対しその真否を追求したところ、木山は、昭和四七年一月三〇日頃植之原巡査部長に対し「岩国方面からも銃が出ている。岩国の米軍基地から、不良米兵、反戦米兵を通じてベ平連が入手し、武闘に備えて隠匿している。」旨の供述をした。

(3) 木山の右供述内容は、同月三一日兵庫県警察から犯罪情報の一つとして山口、広島両県警察に通報され、これに基づいて両県警察は緊密な連絡をとりつつ翌二月一日から捜索を開始し、山口県警察は、岩国ベ平連の一員である原告が経営している「ほびつと」の出入り人物の捜査を行ない、その一環として二月一日から三月五日までの間「ほびつと」出入り人物の写真一〇二枚を撮影した。

(4) ところで木山は、野津加寿恵のライフル銃窃盗事件のほか神戸の米国総領事館襲撃事件(昭和四六年六月頃木山が原毅と共謀して神戸駐在米国総領事館に火炎びんを投てきした事件)、平和台病院襲撃事件(昭和四六年七月頃木山と小椋聖造が神戸市の平和台病院院長宅に火炎びんを投てきした事件)、警視庁赤羽警察署柳田派出所爆破未遂事件(昭和四六年九月頃木山、富沢正隆、青砥幹夫、行方正時らが共謀し、鉄パイプ爆弾(鉄パイプにダイナマイトを充填し、工業雷管付導火線を装置した爆発物)を準備して柳田派出所の襲撃を計画していた事件)、多紀連山における爆弾実験事件(昭和四六年一二月二五日頃木山、富沢、小椋らが兵庫県の通称多紀連山で爆弾の爆破実験をした事件)に関係し、逮捕されるなどして取調べを受けていたが、昭和四七年三月一〇日兵庫県警察須磨署に移されてから同年五月三〇日神戸拘置所に移監されるまでの間は、主として兵庫県警察の亀山説警部補及び三宅巡査部長から平和台病院襲撃事件、柳田派出所爆破未遂事件、多紀連山における爆弾実験事件について取調べを受けた。

(5) 亀山警部補は、植之原巡査部長から前記(2)の木山の供述内容を聞き込んでいたので、昭和四七年三月末か四月初め頃岩国からの銃の隠匿事件について木山を取調べたところ、木山は、四月一〇日同警部補に対し「昭和四六年六月広島大学学生立石某という二二、三才の男が赤軍派に対し来たるべき武闘に備えて米軍岩国基地から反戦米兵、ベ平連というようなルートで武器を相当数入手して隠匿しているが、組織が非常に弱いので、赤軍に同志とも組織ぐるみ入りたいという申出をした。立石某は、武器は大砲、戦車以外のものはほとんど揃つていると述べたが、赤軍派としては信用し難いとして黙殺したようになつていた。ところがその後赤パス隊(PFLPの決闘を上映する赤軍派のグループ)が広島、九州を巡回してオルグ活動をしたときに岩国及び広島に武器が隠されているとの真実性がうかがわれた。一方立石らは、赤軍派からの反応がないため、武器の存在を疑つていると思われたのか、同年一一月中旬頃立石が使者に立ち、隠匿しているうちの一部の見本であるという銃を大阪市内に持参し、西浦某のアジトでその銃を木山らに見せた。立石は、他の武器については我々の事務所に連絡してもらえば、いつでも武器の隠匿場所に案内すると述べ、その場所も教えた。木山は、当時その事務所の場所及び電話番号をメモしていたが、メモはその後同志に渡し、現在では、広島市以下不詳のなんとかビルであることしか記憶していない。木山は直接広島に行つて武器の存在を確認することになつていたが、出発前に逮捕されたので目的を遂げなかつた。」旨供述したので、同警部補は、昭和四七年四月一〇日付で兵庫県警察本部警備課長宛にその旨の「被疑者取調状況報告書」を作成した。

(6) また、亀山警部補が翌一一日前記(3)の山口県警察が撮影した一〇二枚の写真を木山に示したところ、木山はうちNo.32の二枚の写真に写つている人物が立石某であることを特定したため、同警部補は、同日付で木山による写真の特定状況を「取調状況報告書」としてまとめた。

(7) ところで木山による右写真特定以前に、山口県警察が米軍岩国基地に対し銃の紛失の有無に関して照会したところ、米軍岩国基地から銃の特定番号が不明であるから紛失しているか否か確認できない旨の回答があつた。

(8) しかして、前記(5)、(6)の亀山警部補による木山の取調の結果の連絡を受けた山口県警察から広島県警察に対し、木山が立石某を特定した写真の送付とその取調状況、米軍岩国基地への照会の結果が報告され、これに基づいて広島県警察が県下の全警察官に立石某の写真を示したところ、県警察本部公安課の警察官一名、広島西警察署の警察官一名計二名が立石某というのは、かつて暴力行為等処罰に関する法律違反で逮捕された前歴のある者で、その事件を処理したことから面識のある岡田泰であると指摘した。そこで広島県警察が岡田泰を捜査したところ、同人は教学出版に勤務していることが判明したため、四月二五、二六の両日教学出版に出入りする岡田泰らの写真二六枚を撮影して兵庫県警察に持参し、再び木山に示して再度亀山警部補が木山を取調べたところ、同人は、昭和四七年四月三〇日「昭和四六年六月頃立石らから同人らは反戦米兵、岩国ベ平連を通じ米軍岩国基地から銃器弾薬等を盗み出し、広島市内か岩国市内のアジトに隠しているが、武力闘争の組織が弱体であるため、赤軍派と共闘したいという働きかけがあつた。銃器等の盗み出しのルートは岩国ベ平連、反戦米兵等と連携して行ない、これらに関係している広島大学学生立石某、元広島大学学生、元中核清水某らが共同して隠しているとのことであつたが、清水らは銃器等を隠していることを疑われていると思つたのか、昭和四六年一一月下旬頃立石某が自動小銃一丁を持つて関西に来た。その銃は分解し、小包のように梱包して持つて来ており、木山も分解したままの銃を見た。立石はその銃をAR一四とか一五といい、米軍で一番多く使われていると言つていた。」旨供述し、亀山警部補が山口県警察から送付のあつた銃器写真及び広島県警察から送付のあつた前記人物写真二六枚を木山に示したところ、木山は、「立石が見せた銃は、銃の写真図のうちCOLTAR-一五SEMI-AUTOMATIC RIFLEと表示されている写真の銃であり、また人物写真二六枚のうち一から一一までの写真の男(本名岡田泰の写真)が立石某である。」と特定した。そこで亀山警部補は、同日付でその旨の供述調書を作成し、木山はこれに署名指印した。

(9) また広島県警察警部補新川佶は、亀山警部補に対し前記(8)の写真二六枚を木山に示して立石某の特定を行なうよう依頼していたのであるが、昭和四七年五月四日亀山警部補より「四月三〇日木山に写真を示したところ一ないし一一の写真の男が立石某である旨述べた」との回答を得たので、同年五月六日付でその旨の「捜査状況報告書」を作成した。

(10) さらに亀山警部補が木山を取調べたところ、木山は昭和四七年五月一四日「立石某こと岡田泰は、銃を分解のうえ厳重に包装し、国鉄のチツキ便で大阪駅止めで送つた旨話した」旨述べ、その包装形態についても具体的に述べた。そこで亀山警部補は、これらの木山の供述内容並びに銃及び立石某の特定状況を併せて同日付で兵庫県警察警備課長宛の「取調状況報告書」を作成した。

(11) 一方この間木山の関係した事件について木山の供述内容の真否について捜査したところ、米国総領事館襲撃事件は、木山の自供により共犯者原毅が逮捕されるに至つたが、原も木山と同一内容を自供したのをはじめ、平和台病院襲撃事件については、小椋の自供によつて木山の検挙となつたのであるが、その後の実況見分において木山の供述に矛盾がなかつたことが明らかとなり、柳田派出所爆破事件は木山の供述により発覚したものであつた。

更にライフル銃窃盗犯人野津加寿恵の犯人蔵匿は中川貴司の自供により木山が関与していたということで木山の逮捕となつたのであるが、木山は、野津加寿恵のライフル銃窃盗には青砥幹夫が関与している旨自供し、その後青砥を検挙して取調べた結果、青砥もライフル銃窃盗の事実を認めた。また多紀連山における爆弾実験事件に関する木山の供述は現場での実況見分と矛盾はなく、木山の供述に従つて薬品を調合し爆破実験をしたところ、実際に爆発した。

以上の事実から警察当局は、岡田泰の米軍用ライフル銃所持に関する木山の供述も信頼できるものと判断した。

(12) また、岩国警察署警部補谷口守男の作成にかかる昭和四七年六月三日付「反戦喫茶「ホビツト」に対する捜査状況について」と題する書面によれば、原告らは「ほびつと」開設のため昭和四六年一一月中旬現在地の家屋賃借の仮契約をし、昭和四七年一月一六日頃から工事を開始し、同年二月二五日開店したが、同店にはベ平連関係者が常駐するほか反戦米兵が出入りし、同店関係者も岩国基地へのデモや反戦米兵を交えた反戦ピクニツク等を行なつている旨記載されていた。

(13) そこで広島県警察西浜警視は、岡田泰に銃刀法違反の被疑事実が存し、またこれに関連して「ほびつと」を捜索、差押する必要があるとして昭和四七年六月四日広島地方裁判所裁判官に岡田泰の逮捕状を請求し、同日その発付を受けたほか、「ほびつと」の捜索差押許可状の発付等を請求し、同裁判所裁判官広田聰より本件許可状の発付を受けた。

なお、本件許可状の請求に関し、西浜警視が添付した資料は、前記昭和四七年四月一〇日付亀山警部補作成の取調状況報告書、同月一一日付同警部補作成の取調状況報告書、同月三〇日付同警部補作成の木山高明の供述調書、同年五月六日付新川佶警部補作成の捜査状況報告書同月一四日付亀山警部補作成の取調状況報告書、同年六月三日付谷口守男警部補作成の「反戦喫茶「ホビツト」に対する捜査状況について」と題する書面のほか、昭和四七年二月八日に撮影した岡田泰が建設中の「ほびつと」を訪れた写真(木山が立石某とはこの男であると特定したNo.32の写真)や、岡田泰の勤務していた教学出版の状況、赤軍広報隊(いわゆる赤バス)が広島を訪れた状況昭和四六年八月六日に赤軍が広島に来た状況を報告した資料等合計三七点の資料を添付した。

以上の事実が認められ、〈証拠省略〉のうち、この認定に反する部分は信用できないし、他にこの認定に反する証拠はない。

なお亀山警部補が虚偽の取調状況報告書を作成したこと、木山の供述調書を偽造したとの原告主張事実は、後記昭和四九年(ワ)六八四号事件の理由において述べるようにいずれも認めることができない。

ところで前記(一)で述べたとおり刑訴法二一八条は、「警察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる」(一項)「第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。」(三項)と規定しており、また捜査機関が行なう捜索につき刑訴法二二二条によつて準用される同法一〇二条は、「裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索することができる。被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。」と規定し、これらを受けた刑事訴訟規則一五六条は、捜索令状等の請求をするには、「被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならない。」(一項)としまた「被疑者又は被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所についての捜索のための令状を請求するには、差し押えるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない。」(三項)と規定しているのであるから、捜査機関が本件のように被疑者以外の第三者についての捜索許可状の発付を請求するには、捜索にかかる被疑事実につき被疑者が罪を犯したと思料されること及び捜索場所に差押えるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを要するというべきであり、これらの要件の存在は、捜索差押許可状の請求の要件であると同時に、その発付の要件であることは明らかである。

しかしてこれらの要件が存するか否かは、請求時、発付時において当該請求にかかる捜査官、または発付にかかる裁判官において、当時収集し得た資料に基づいて客観的にみて合理的かつ相当な理由があるか否かによつて判断されなければならないが、捜査はきわめて合目的要素が強く、発展的でかつ迅速を要することや捜索差押が逮捕と異なり直接身体を拘束するものではなく人権侵害の程度が低いことからすれば、捜索差押許可状の請求、発付に際して要求される犯罪の嫌疑の程度は、逮捕状の請求、発付に際して要求されるそれに比し、低くて足りると解するのが相当であり、また第三者の住居等を捜索する場合の差し押えるべき物の存在を認めるに足りる状況があるか否かについては、犯罪の態様、軽重、捜索差押物の証拠としての価値、重要性、被疑者と第三者との関係等の諸般の事情を総合して、結局は、捜査の必要性と捜索差押を受ける第三者の住居、財産等の保護との比較により決せられるべきである。

そこで本件許可状の請求、発付当時にこれらの要件を認めるに足りる客観的な合理性、相当性があつたか否かについて考える。

まず、岡田泰に関する銃刀法違反の被疑事実の存否については請求資料の中に「立石某が赤軍派の木山に対し米軍岩国基地から反戦米兵、ベ平連を通じ武器を入手した。」旨述べ「そのうち見本の銃を昭和四六年一一月中旬頃大阪市内の西浦某のアジトで木山らに見せた。」との昭和四七年四月一〇日付取調状況報告書があること、木山による立石某の写真による特定状況を記した翌一一日付取調状況報告書があること、立石某の武器入手を聞知した旨の木山の供述や立石某が携行した銃がCOLTAR-一五 SEMI-AUTOMATIC RIFLEであること及び立石某が実は岡田泰であることを木山が写真で特定した同年四月三〇日付木山の供述調書があること、木山が立石某を写真によつて特定したことを記載した同年五月六日付捜査状況報告書や立石某による銃の運搬状況や立石某が岡田泰であることを木山が特定した旨の同月一四日付取調状況報告書があること、木山が他事件について供述した内容には信憑性があつたことからすれば、客観的にみて岡田泰が本件ライフル銃を不法に所持していたと疑うに足りる相当かつ合理的な理由があつたというべきである。

次に「ほびつと」に差押物の存在を認めるに足りる状況があつたか否かについては、前記のように、立石某が反戦米兵、岩国ベ平連を通じて盗取し、広島市内か岩国市内のアジトに隠匿している武器の見本として米軍用AR-一五ライフル銃一丁を大阪に持参し、木山らに見せた旨の木山の昭和四七年四月三〇日付供述調書があること、同旨の同月一〇日付取調状況報告書があること、「ほびつと」に反戦米兵、ベ平連関係者が出入りしている状況を記載した同年六月三日付調査状況報告書があること、岡田泰が工事中の「ほびつと」に出入りしていたことを示す写真があることからすれば、「ほびつと」に岡田泰が不法所持していたとされるライフル銃、及びこれに関連して岡田泰らが米軍岩国基地から盗取したとされる武器類が隠匿されていると判断し得る相当かつ合理的な理由があつたものというべく、また岡田泰に対する被疑事実が銃の不法所持という国家社会の治安に直結する犯罪であることからすれば、銃の隠匿の可能性がある場所として「ほびつと」を捜索する必要があつたというべきである。

そうすると、本件許可状の発付を請求した広島県警察西浜警視の行為、本件許可状を発付した広島地方裁判所裁判官広田聰の行為には、いずれも違法がなく、適法であるということができる。

なお原告は、岡田泰に対する被疑事実が、本件許可状と同人に対する逮捕状とでは日時、場所を異にしており、同一性がないし、本件許可状記載の被疑事実の日時、場所である「昭和四六年一一月中旬以降」及び「広島市内」でのことについては、これを裏付ける資料がなく、また本件許可状記載の被疑事実自体犯行日時、場所が不特定である旨主張するが、木山の亀山警部補に対する供述(昭和四七年四月一〇日付被疑者取調状況報告書、昭和四七年四月三〇日付供述調書)によれば、「立石某が昭和四六年一一月中旬頃大阪市内の西浦某のアジトで木山らに銃を見せた」というのであるから、岡田泰に対する逮捕状記載の本件ライフル銃不法所持の被疑事実は、右時点をとらえたものということができ、また同年四月一〇日付の取調状況報告書によれば、「立石某は、武器の隠匿場所への連絡場所として広島市内以下不詳のビルを木山らに教えた」のであるから本件ライフル銃が立石某により右連絡場所等に持帰られた可能性もあり、そのことに加えて本件ライフル銃が本件許可状請求日である昭和四七年六月四日当時未だ発見されていなかつたこと(この事実は証人西浜勇の証言によつで認められる)からすると、本件許可状記載の被疑事実と逮捕状記載の被疑事実には、同一性があるものというべきであるし、本件許可状記載の被疑事実の日時、場所についての資料がないということもできない。

また本件許可状記載の被疑事実の特定についていえば、銃の不法所持が継続犯であることや、捜索差押許可状の請求が通常捜査の比較的初期の段階に行なわれるものであり、その後の捜査の進展如何によつて事態が推移するものであることを考えると、少なくとも捜索差押許可状の請求ないし発付の段階において要求される被疑事実の特定は、木件許可状記載の被疑事実程度で足りるものと解されるから、この点に関する原告の主張は理由がない。

次に原告は、本件許可状記載の被疑事実によれば、岡田泰の犯行は広島市内におけるものであるから、岩国市に所在する「ほびつと」を捜索する関連牲ないし必要性がないとも主張するが、昭和四七年四月一〇日付取調状況報告書、同月三〇日付木山の供述調書によれば、立石某が岩国米軍基地から本件ライフル銃等の武器を盗み出したルートの中に岩国ベ平連が含まれているとされるのであり、昭和四七年六月三日付「反戦喫茶「ホビツト」に対する捜査状況について」と題する書面によれば、「ほびつと」にはベ平連関係者が常駐しているとされるのであるから本件許可状の請求、発付の段階では、「ほびつと」に捜索差押の対象となる銃及び弾丸類が存する可能性を否定することはできない。

原告は、さらに、木山の供述には信用性がないし、かりに同人の供述に信用がおけるとしても、そのもととなつた立石某の供述の信用性を裏付ける資料はないと主張するが、前記認定の(11)の事実によれば、木山の別事件における供述は信用できるものであつたことが認められるのであり、同人が、本件についてことさら虚偽の供述をする必然性も窺えないところであるから、同人の供述は、これを信用できるものと解するのが通常であるし、また立石某の供述の信用性は、木山が立石某の運搬してきた銃を見ていること及びその銃は通常人が入手し得ない米軍用ライフル銃であつたこと(昭和四七年四月一〇日付取調状況報告書、同月三〇日付木山の供述調書)からすれば、公判段階においてはともかく、捜査段階においては立石某の供述を信用できるものとしてなお一層の捜査を遂げることは何ら妨げないものというべきである。

しかして西浜警視が本件許可状の発付を請求するために添付した資料により岡田泰の被疑事実及び「ほびつと」に押収物が存在すると認めるに足りる状況があることを認定できることはすでに述べたところであるから、本件許可状の請求資料が不十分であるとの原告の主張も採用できない。

(三)  (嘱託に応じてなした捜索執行行為の違法性の有無)

原告は、本件許可状に基づく捜索の執行にあたつた岩国警察署派遣の警察官らは、「ほびつと」に銃が存在しないことを知りながら、捜索を行なつた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

原告は、また米軍岩国基地に対する照会により銃の紛失がないことを容易に確認し得たにもかかわらず、岩国警察署派遣警察官らはこれをしないまま捜索を執行したから違法である旨主張するが、前記(二)の(7)で認定したとおり、山口県警察が米軍岩国基地に対し照会したところ、銃の特定番号が不明であるから紛失の有無は確認できない旨の回答があつたにとどまることからして、それ以上に銃の紛失の有無を確認することは困離であつたというべきであるから原告の右主張は何ら理由がない。

従つて広島県警察本部より本件許可状に基づく捜索の執行を嘱託され、これに応じて「ほびつと」に対する捜索差押の手続を執行した岩国警察署派遣警察官らの行為に違法があつたということはできない。

(四)  (具体的な捜索執行行為の違法性について)

〈証拠省略〉によると、次の事実が認められる。

(1) 山口警察本部警備課課長補佐林孝一警部は、昭和四七年六月四日午前七時頃同県警察警備課長より「ほびつと」の捜索を命じられ、県警察本部員六名と共に岩国警察署へ赴き、同警察署長の指揮下に入つた。そこで「ほびつと」捜索のため、捜索班一三名(私服)、警戒班一一名(制服)の捜索隊が編成され、林警部が総括責任者となつて捜索を行なうこととし、捜索班は林警部が直轄し、警戒班は岩国警察署川下警察官派出所主任高橋勝巡査部長が責任者となつた。

なお、捜索隊は、岩国警察署において、同署警備課長より、捜索場所が営業の場所であり、捜索時間が営業時間中となるため、客に対しては十分事情を説明して無用のトラブルを起こさないよう注意すること、警戒班は職務執行の妨害に十分注意するとともに押収対象物が搬出されないよう警戒すること等の注意を受けた。

(2) 捜索隊は午後一時四〇分頃「ほびつと」に到着し、警戒班を、うち五名を「ほびつと」の入り口側へ、うち六名を「ほびつと」の裏側へそれぞれ配置し(裏側へ配置した六名のうち二名は「ほびつと」の入り口側で、人だかりがしたため、後に入り口側へ配置された)、午後二時頃より原告及び「ほびつと」の従業員の立会のもとに捜索を開始した。

(3) 警戒班の弘下巡査部長は、捜索中に店内から出て来た者に対し所持品の呈示を求めたところ、その者は現金とハンカチを見せ、このほかにはない旨述べたので、同巡査部長が「ほかにないか」と尋ねたところ「調べてみてくれ」と答えたので同巡査部長がポケツトの上からさわつたが、不審物がなかつたため、そのまま帰した。

(4) また高橋巡査部長は、午後二時頃「ほびつと」内から年令一八才位の男二人が出て来たため、住所氏名を尋ね、所持品の呈示を求めたところ、二人はこれに応じた。そのうち一人は風呂敷包を抱えていたため、同巡査部長が「それは何か」と尋ねたところ、「弁当箱だ」と答えたので、同巡査部長が「念のために中味を見せてほしい」と言うと、その男は「どうぞ見てくれ」と答えたので、同巡査部長が風呂敷包を開き、弁当箱であることを確認した。

(5) 同じく高橋巡査部長は、午後二時一五分頃米兵一人が店から出て単車に乗ろうとしたため、免許証とIDカードを見せてほしい旨、またポケツトの中味を見せてほしい旨頼むと、米兵はこれに応じて免許証、IDカード及びポケツトの中から米コイン等を出して見せた。

(6) また警戒班の一人である上林巡査らが店から出てきた二〇才位の女性に住所氏名を聞かしてほしい旨尋ねるとその女性はこれに応じて答えた。

(7) 同じく警戒班に属する合田巡査が「ほびつと」に入ろうとした二人連れの男女に捜索中であるから捜索が終るまで遠慮してもらえないかと協力を求めると、これに応じて「ほびつと」に入らずに帰つたことがあり、また佐藤巡査は若い男が店に入ろうとしたため捜査中であるので遠慮してほしい旨述べるとその男はそのまま立去つた。

(8) 訴外久光義秋は、「ほびつと」に入ろうとしたが、警察官から肩に手をかけて呼びとめられ、公務中であるとして住所、氏名、年令、「ほびつと」に来た回数を尋ねられるなどしたが、同人が答えなかつたため帰れと言われた。

(9) その他に捜索にあたつた警察官が応対した「ほびつと」への出入り者はいない。

以上の事実が認められ、〈証拠省略〉のうち、右認定に反する部分はにわかに信用できないし、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、捜索差押許可状に基づいて捜索差押を行なう場合においては、その執行中に許可を得ないので捜索場所へ出入りすることを禁止することができるのであり(刑訴法二二二条、一一二条)、捜索場所から出ようとする者については捜索の対象物を搬出しようとする可能性があり、また捜索場所へ入ろうとする者については、捜索場所の関係者である可能性及び捜索が妨害される可能性があるのであるから、これらの者に対し、任意の対応を期得し得る限り住所氏名等を質問したり、所持品の呈示ないし開示を求め、更には相手方の同意を得て所持品を開示することは、捜査官の正当な職務行為として警職法二条、警察法二条に照らし、また捜索の実効性を確保する見地から許されるものというべきである。

これを本件についてみるに、「ほびつと」捜索隊警戒班の警察官が前記認定のように「ほびつと」出入りの者に対してなした住所氏名の質問、所持品検査はいずれも相手方の同意を得て行なわれたものということができるから、もとより正当な職務行為ということができ、また久光義秋に対して肩に手をかけた行為は職務質問の前提として行なわれたものであるから、この程度の行為をもつて違法であるということはできず、同人に対して帰れと言つたことも要するに捜索中の「ほびつと」への出入りを禁ずる趣旨であるということができるから(証人久光義秋の証言によれば現に同人は「ほびつと」の捜索終了後、同店に入店していることが認められる。)、これをもつて違法ということはできない。

従つて捜索の具体的行為に違法があつた旨の原告の主張は採用することができない。

四  そうすると、本件許可状の発付を請求した西浜警視の行為、これを発付した広田裁判官の行為、本件許可状に基づく捜索を嘱託した広島県警本部長の行為、現実に捜索を執行した林孝一警部外二三名の警察官の行為には何ら違法がなく、適法であるということができるから、その余の点につき判断するまでもなく原告の請求は理由がないものというほかない。

第二昭和四九年(ワ)第六八四号事件について

一  原告の地位、本件許可状の請求、発付及びこれに基づく執行の経緯は、前記第一の一、二に記載のとおりである(なお第一の一、二記載の事実のうち原告と被告広島県、同山口県、同国との間において争いのない事実は、原告と被告兵庫県との間においては、〈証拠省略〉によつて認められる)。

二  原告は、兵庫県警亀山警部補が木山の取調べに際し、虚偽の取調状況報告書を作成し、また木山高明の供述調書を偽造し、あるいは木山に対しウイスキーやウイスキー入りの紅茶を飲ませて違法な取調をした旨主張し、〈証拠省略〉もこれに沿うが、右は〈証拠省略〉に照らし、信用できないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえつて前掲〈証拠省略〉によれば木山は、昭和四七年一月頃栃木県真岡市における京浜安保共闘の銃強奪事件の追及を免れる含みもあつて、本件ライフル銃についての供述をしたこと、その後木山が属していた赤軍派の構成員が同志内でリンチ事件を起こしたことから、木山は、本件ライフル銃もそのような目的に使われるのは耐えられないとし、警察が銃を押収することを予期して同年四月から五月にかけ本件ライフル銃の目撃状況、立石某がこれを持参した状況等について自ら供述し銃の特定、立石某が岡田泰であることの特定を行なつたこと、そこで亀山警部補は前記第一の三の(二)にあるように昭和四七年四月一〇日付取調状況報告書、翌一一日付取調状況報告書、同月三〇日付木山の供述調書、同年五月一四日付取調状況報告書を作成したこと、昭和四七年四月三〇日付木山の供述調書は、亀山警部補が木山の供述内容をまとめて作成したものであるが、同警部補が木山にこれを読み聞かせたうえ、署名を求めたところ、木山は自ら任意に署名指印したこと、この間亀山警部補が木山の取調べに際し、ウイスキーやウイスキー入り紅茶を飲ませたことはないことが認められる。

そうすると、木山の取調べにあたつた亀山警部補には何ら違法がないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないものというほかない。

第三結論

以上の説示によると、昭和四七年(ワ)第五八七号事件、昭和四九年(ワ)第六八四号事件における原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森川憲明 谷岡武教 山口幸雄)

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